ケモノの物書き堂

猫メ けものの一次創作ブログ

エデンの孵卵

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孔子の有名な言葉に衣食住が揃って人は初めて礼節を知る。というものがある。着るもの。食べるもの。住む場所が揃って初めて人はきちんとした態度をとることができるという言葉だ。
 特に食の重要さは特筆すべきものがある。心理学においても食事を食べる。食に関する絵などを描くということは、キャラクターや筆者が心的エネルギーを蓄えている象徴として扱われる。
 食は私たちの体を作る原材料でもある。バランスの良い食事を日々心掛けているか。良いものを食べているか。
 それは体に自ずと現れ、その人の在り方を決定づける。
 これからご紹介するエデンの孵卵という小説は、そんな食の在り方を記した物語かもしれない。
 物語は氷河期を迎えたディストピア的な世界観の中で語られる。選ばれた民としてエデンで暮らすユバルは罪を犯したというバベルの民と出会い、自身の世界が壊れる瞬間を体験する。
 それは戦争や災害、大きな社会の変化によってもたらされる外因的なものではなく、あくまでユバル自身の中で起きる静かな自己の変革だ。そして、それはバベルの民によって提供される食によってもたらされる。
 二次性徴をこれから迎えるであろうユバルは、食によって精神的な自立への一歩を踏み出したと言ってもいいかもしれない。
 私たちにとても身近な、そして庶民的な印象を強く持つあの麺類が、キリスト教的なディストピアの世界観に上手く融合していることも驚きだ。
 本作はその独創的かつ共感しやすい物語が評価されたのか、第一回モーニングスター大賞においても特別賞を得ている。
 作者の犬井作さまは、若いながらも思惟の深さと洞察力の鋭さを垣間見せてくれる作品を書かれる方だ。
彼とはtwitter上でシン・ゴジラの話題によって意気投合し知り合いになった。もしかしたら数十年後に、彼自身が映画版ゴジラの脚本を書くかもしれない。若い才能というものはそこにいるだけで恐ろしいものだ。凡人はそこに行きつくまで散々苦労して書けるようになるものを、ひょっと己の持つ感性だけで書いてしまうのだから。